最高学府での学び

投稿者: | 2015年12月29日

前回にもふれましたが、日本最高の大学として圧倒的な存在だった東京大学で、かつて関東以外の出身者の方が多かった学部合格者は、近年、関東圏の高校出身者に過半を占められてきており、「日本を代表する大学」という点からは徐々に変化が見られるようです。その背景には様々な要因があるでしょうが、これまでに当サイトでとりあげてきたことのなかでは、授業料など学費負担の増大も、理由の一つとして考えられます。

前にも述べたとおり、国立大学の授業料は1970年からの10年間で15倍に増えて年額18万円となり、その後も継続的に引き上げられて、2000年代半ばには53万円台へ達しました。それ以降、ここ10年ほどは増額もなく据え置かれてきましたが、一方、民間の給与所得者(俗に言う「サラリーマン」)等の平均年収がこのところ減ってきており、1990年代のピーク(460万円台)から、2000年代半ばで約440万円へ、そして2010年代に入ってからは410万円前後で推移しているようです。

たとえ分子(授業料)は変わらなくなっても、分母(収入)が小さくなってきていれば、家計に占める学費の負担感は増え続けることに変わりありません。在学中の住まい等の費用も考える必要がある関東以外の高卒者からすれば、いわゆる貧困層のほか中流の家庭でも、経済的に東大より他の大学を選ぶ割合が高まってきていたとして、不思議ではないでしょう。

こうした状況のなか、国立大学の授業料の値上げを再開しようとする動きもあるそうで、2030年頃には年額90万円以上にすることが目指されている、とも聞きます。4年分の授業料に、入学金と、その他の諸経費まで含めれば、学費だけで400万円を超えてくるものと見込まれ、(減少傾向にある収入の方が下げ止まったとしても)平均年収に相当します。

もっとも、上記の年収の金額はあくまで額面であり、実際には、ここから差し引かれる税金や、増え続ける社会保険料の分まで考慮する必要があります。そうなってくると、先述のように地元を離れて東大への進学を志す場合だけでなく、他の旧帝大など近場の国立大学への進学を目指す場合までも、経済的理由から断念するケースが増えてきそうです。

この点、同じく大学の授業料値上げにさらされてきた他の国でも、例えば、大学の学費が3倍近くに引き上げられたイギリスで、オランダの大学への進学者が急増した事例や、ドイツの大学へ入学したアメリカ人学生の例を、以前に挙げました。こうした学生とは違い英語が母語ではない日本人も、ある程度の時間・労力等をかけて備えていければ、同様の対応をとれるようになるはずです。

次世代のうち、学力も意欲も高く大学教育に適した人物が、たまたま生まれた先の経済的な理由で、また、ただ一国の教育政策・方針に振り回される形で、その人にふさわしい高等教育を受ける機会が得られなくなる-こうした事態が少しでも減らせる未来を望みます。

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