日本の財政再見

投稿者: | 2015年11月29日

これまで高齢者の社会コストに関して書いてきて、前回の最後では日本の財政悪化にも言及しました。そこで今回は、今日の日本の財政状況について、他国の例も交えつつ一度ここで確認しておきます。

はじめに、ざっくりと近年の財政収支から見ていくこととし、国の一般会計を確かめてみると、2014年度の決算で歳入・歳出の規模は約100兆円となっています。まず歳入では、このうち40兆円近くを公債(国債の新規発行)で賄っており、純然たる税収による部分は50兆円台に止まります。その内訳は、従来から割合として高かった所得税(17兆円弱)と法人税(11兆円)に加え、当該年度より5%から8%へ変更された消費税(16兆円)が大きく伸びました。

一方、歳出では、かねて当サイトで何度もとりあげてきた社会保障費が30兆円とトップシェアを占め、次に、国債の利払いや、償還等にかかるコストも加えた国債費が22兆円で続き、この2つだけで既に税収と匹敵します。以下、先日にもふれた地方交付税交付金等が17兆円、また公共事業で7兆円余、そして文教・科学振興防衛関係に各々5兆円台、といった辺りが主な項目として並びます。

そのうち、文教・科学振興費の一部が教育へ振り向けられる訳で、そもそもからして、あまり学校教育には資金を振り向けてこなかったなか、前に言及した国立大学の授業料の値上げなど、今後いっそう割り当てを減らしていこうとしていることになります。他方、30兆円にものぼる社会保障費については、細分化して見ると最も大きいのが年金・医療介護保険の給付費で、2013年度に22兆円弱と、社会保障費全体の75%を占めています。年金はもちろん、健康保険等でも結局その多くを高齢者が使っていることは既に述べた通りですが、これまで為されてきた変更-年金の支給開始年齢に関しても、医療費の自己負担割合に関しても、それから該当の年齢へ達する世代だけを対象としています。それより前の高齢世代を保護し続けている限り、結果として年金医療介護保険給付費も、そして社会保障費も、当分は増え続けるままでしょう。

 

以上を踏まえ、参考まで、一つ他国の財政を日本と比べてみることにします。それに当たって、以前、アジアで最も経済発展の進んだ国として挙げたシンガポールの財政収支を、簡単に見ていきます。まず、同国の歳入は2014年度で約600億ドルと、5兆円を少し上回る規模で(1シンガポール・ドル86円で計算)、税収の内訳としては法人税で130億ドル余、所得税および源泉徴収税で約100億ドル、また消費税でも100億ドル強、といったところが主だった項目です。

他方、歳出の面では日本との差が鮮明で、大きくは(1)歳出の総額が税収等と同レベルに収められていること、(2)Defence(防衛)とEducation(教育)に多額の予算を充てられていること、の二点が挙げられます。そのうち、本来なら当たり前と言えば当たり前の前者についてはさて置き、後者の(2)に関してですが、このツー・トップは前々から見られてきたシンガポールの特徴で、歳入の2割に当たる120億ドル前後を各々へ当てており、次いでHealthに約70億ドル、Transportへ60億ドルと続きます(2014年度)。

高齢者などの既得権益をよく保護し、かつ、これまで積み上げてきた公的債務を今なお積み増し続けて、過去の負の遺産がいよいよ重く圧し掛かっていく日本と、それと対照的に、財政収支のバランスも取りつつ、防衛という、いわば現在の繁栄を守るための使途や、未来のための教育が重視されるシンガポール…。これは、単に財政だけから見ての違いではありますが、国の行く末に希望の持てる例と、いかにも期待できない例とを並べてみたようにも見える気がします。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA