日本の経済発展の構造

投稿者: | 2015年11月13日

前回、かつて日本経済が高度成長の最中にあった時も、実際に競争力の高い産業は限られていて、そうした稼ぎ頭の産業から多く上がった税収を元に、政府が公共事業として発注したり、補助金助成金として直接的に資金を供給したりすることで、幾らか他の産業も支えてきたことを述べました。こうして産業別に見た場合だけでなく、地域別に見ても同様に言え、今回はその点について掘り下げていきます。

巷では、かねてより「東京一極集中」がしばしば批判の対象になってきましたが、行政に関連して、東京を他の地域から際立たせる違いの一つが、その財政の面で見られます。よく言われることとして、日本の税収については約6割を国税として中央政府(国)が取り、約4割を地方税として地方政府(都道府県、市町村)が得る一方、歳出に関しては逆に全体の約6割を地方政府が、約4割を中央政府が負担している、という話があります。このギャップを埋めるものとして象徴的なのが、中央政府からの地方交付税交付金でしょう。都市部など発展した地域へは交付を少なくする一方、その分まで、税収の乏しい地方の政府へ重点的に配分し、後者のような地域も発展させていくことが目指されてきました。なかでも東京都は、都道府県レベルでは唯一、この交付金を受け取っていない地方公共団体です。

その東京をはじめ、大阪、名古屋など大都市や、主な工業地帯を擁する地域では、ある程度は財政的に自立した地方自治が可能だったかもしれませんが、それ以外の地域では、結果的に中央政府への依存を強めてきた、という側面もあります。とりわけ、前回、そして今回も冒頭でふれたような、産業別で見て建設業、農業といった業種の多い地方では、地方交付税交付金や、公共事業、または農家などへの各種補助金、助成金を頼りがちになっていったとしても、ある意味、自然な流れかもしれません。

戦後、こうした構造のなかで長らく政権を維持したのが自由民主党自民党)であり、特に、大都市より地方都市で、そして地方都市より非都市部(農村部)で強い支持基盤を築いてきました(※)。交付金、補助金、助成金ほか、どのような名目であれ、中央政府から回ってくる資金で地元経済が支えられてきた状況においては、その獲得、維持、拡充に働いてくれる議員を国会へ送り出そうと動機付けられる法人、個人も少なくないでしょうし、他方、政治家の側でも、そこに自分の役割を重く見出しかねません。

とはいえ…前回、稼ぎ頭の産業も次第に羽振りが悪くなっていくことに言及しましたが、地域別で見た際にも同様に言えます。何十年か前、アジアで東京に並ぶ都市が無かった頃ならまだしも、(以前にふれた、海運の世界での神戸の地位と似て)シンガポールや香港など他国の都市の発展に伴い、かつて東京にアジアの本社機能を置いていた世界的企業でも、そうした都市へ統括拠点を移してきています(国際的な金融機関に至っては、HSBCやCitibankといった銀行が、少なくともリテール部門では日本から撤退までしました)。

いまだに「東京一極集中」と批判するなどして地方へ多額の資金を流し続けようとするのもともかく、日本でも幾つか(少なくとも一つ)は、海外の主要都市と張り合えるだけの都市が残っている未来であってほしい、と個人的には思います。

 

※ 石川真澄、広瀬道貞(1989)『自民党-長期支配の構造』岩波書店、63~121頁。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA