前回は、日本が既に衰退過程へ入ってしまったかもしれないという懸念に関して少し見直しましたが、今回は逆に、戦後これまでに発展を遂げてきた日本の経済成長の過程からとりあげていきます。
終戦後、復興へ乗り出してからの日本では、経済の牽引役ともなるような異なる産業が各時代ごとに発達してきました。それは、繊維ほか軽工業から、鉄鋼などに始まり、家電や自動車、そして半導体まで、徐々にハイテク産業へシフトしていきます。その間、このように競争力の高い産業から多くの製品が海外へ輸出され、外貨の獲得にも大きく貢献してきました。また、こうした産業を中心に企業の業績が総じて伸び続けるなか、そこから納められる税収も増えていき、結果として、政府がそれ以外の産業を補助したり、助成したりしていくのにも潤沢な資金をもたらす形となりました。
ところが、そうして工業化が進んで成熟段階へ近づいてくると、次に花形となるような産業の興隆を見ない内に、旧来の花形産業はアジアNIEs(※)など後発の工業国にお株を奪われやすくなってきます。この結果、企業の業績が以前より伸びにくくなり、ともすれば逆に落ち込んで、政府の税収の基盤も同様に動揺していきます。そうなると政府では、新規産業への投資や育成はおろか、建設業、農業などへ回す資金も心許なくなってくる所ですが、とはいえ、従来こうした業界の関係者が政権与党の強固な支持基盤となってきた訳で、…後はご想像にお任せします(この点に関連して、もう少し次回に続けます)。
ひとまず話を戻すと、かつて近代化(モダニゼーション)、工業化の潮流のなかでは日本は比較的うまく、早く適応してこられたものの、ここ数十年ほどグローバル化(グローバリゼーション)、情報化の過程ではそれほど早くも、うまくも変革してこられていないように見えます。
そう見る背景については、いずれ改めてとりあげたいと思いますが、ここではそのうち情報化に関して少しだけふれておくと、かつて日本のソニーが席巻していたマーケットを今ではアメリカのApple社が占めているほか、YahooやGoogle、Facebookなど、世界的なIT企業もアメリカに集中しています。これは、英語を母語とするなど日本には無いアメリカの優位性以外に、両国の風土の違いによる部分も大きいでしょう。例えば、ここで挙げたような新興のIT企業の創業者には移民(1世ないし2世)が少なからず含まれます。そうすると、今日のIT業界の繁栄は、アメリカでは外国人を受け入れ、活躍のチャンスもそこそこ与えられてきたからこそ、とも考えられます。翻って、移民にも難民にも(!)アメリカ等よりは閉鎖的な今の日本だと、これから先も勝ち目は乏しく、その点、まだ期待できるとすれば、むしろ日本人のうち能力・意欲の高い者が日本から出て、海外に活躍の場を求め、そこで成功する可能性の方かもしれません。
※ アジアNIEs (Newly Industrializing Economies): 新興工業経済地域。戦後のアジアで日本に続いて目覚ましい経済発展を遂げた地域のことで、具体的には、韓国、台湾、香港、シンガポールの4つを指す場合が多いです。