大学卒業後の進路: 昭和的な理想像

投稿者: | 2015年9月13日

今回は、前回の最後でふれた通りに早速、旧帝大など大学を卒業した後の将来像として、かつて広く信奉されながら、これからは再考も要すべき典型例を、以下に幾つか挙げていきます。

1. 会社員

まず、前世紀には一頃「絶対に潰れない」と信じられていたとも聞く都銀(都市銀行)をはじめ、大企業に就職することが、少なからぬ大学生(と、その親)の間で望まれてきました。銀行以外にも、三菱と三井、住友といった財閥系企業から、東芝、NECなど大手製造業まで、その時々の有名企業が特に好まれました。

こうした企業への憧れは、将来に倒産する危険性が低そうで、年功序列と終身雇用制に象徴される雇用慣行も堅持されそうな、その安定感に魅かれて…という部分も多分にあったはずです。

しかし今や、「リストラ」等と称しての整理解雇や早期退職が大企業でも珍しくなくなり、また、そこまでは苦境に追い込まれていない企業でも、かつてほど気前よく従業員を昇進させていける余裕は減ってきています。

2. 公務員

配属部署によっては毎日のように定時で帰れる地方公務員から、拘束時間の長い霞が関(東京)の省庁で働きつつ「天下り」後の生活に期待してきたキャリア官僚まで、一口に公務員と言っても様々ですが、総じて、前述のような大企業と同等(か、それ以上)に、安定性への期待から人気が高く保たれてきました。なにしろ、法的に身分が保障されている以上、それこそ、犯罪行為をするなど特定の条件に当たらない限り、解雇される心配もほとんど無かったのです。

しかしながら、先日にも言及した通り、日本の公的債務は膨らんでいく一方で、これを減らしていくどころか、まず財政赤字を止めることさえ、現実的にはできていません。

これまで、財政危機に陥った他の国では、公務員を何割か-例えば3割ほど-一気に削減し、同時に、残って勤め続ける公務員の給与額も同様に(例で言えば3割)カットする、といった改革が断行されたりしたようです。これから大学へ進学して将来に日本の公務員を目指す場合も、仮に首尾よく採用試験に合格して就職できたとして、定年まで勤め上げる前に、そうした改革を身をもって経験する可能性は覚悟しておいた方が良いでしょう。

3. 主婦(主夫)

上で挙げてきた二つは、いずれも「勤め人」(俗に言う「サラリーマン」)という点で共通していますが、この他の昭和的な将来像として「主婦」についても、最後にふれておきます。

かつて、多くの女性は、成人後に結婚して夫に養ってもらい、代わりに家庭を守ることが期待されていました。そして、洗濯、掃除、炊事等に日仕事で取り組み、「専業主婦」として働いてきましたが、こうした女性の生活は、家電製品の普及・発達によって様変わりしました。具体的には、例えば洗濯で言うと、昭和に入って洗濯機が広まり、その後も時代とともに自動化の進んだモデルへ改良されてきたなかで、主婦が洗濯に要する手間暇は激減しました(※)。この他、家の掃除にしても、掃除機のおかげで所要時間が短縮され、さらに近年では、ルンバなどロボットの仕事に、人の手から離れていく方向へ移りだしかけています。こうした結果、昔は家事だけで一日かかっていたものが、今はずっと短時間で済むようになりました。また、炊事に関しても、外食・中食産業が発展し、かつ、コンビニの拡大とともにスーパーも夜遅くまで営業する所が増えてきた今、特に都会では「専業主婦」という理由がなくなってきたと言ってよいでしょう。

つまるところ、例外的な時期(例えば妊娠中や、乳幼児を育てている期間など)を除き、主婦というのは昔よりも長く自由時間を持てる身分に変わりました。こうなってくると、もともとフルタイムで働いている「ワーキング・マザー」とか、あるいは、家計の足しに家事の傍ら連日パートタイムで働く「兼業主婦」とかでもない限り、暇を持て余す有閑階級にも似た日々を過ごせます。そうして、ママ友同士で会ったり、昼ドラに興じたり、あるいはデパート等での(ウィンドウ)ショッピングに時間を潰してこられた訳ですが、それも、前掲のような職業の配偶者の収入へ依存できてこその話です。

既述の通り、この土台からして揺らいできている近年、若い世代の夫婦ほど共働きの割合が増えてきているようで、それ自体は、時代の変化に応じた良い傾向だと思います。他方、昭和的な主婦の御座す家族だと、いまだ古い観念が根強く残りがちで、そのように時代へ合わせて変化しづらそうな点が気がかりです(※※)。

 

※ 参考として、吉川 洋(2012)『高度成長』中公文庫の46~48頁、「洗濯機」の件を読んでみれば分かりやすいと思います。もっとも、どうせなら本書を最初から最後まで一度は通読し、戦後の日本経済の成長過程を概観してみるのもお勧めです。

※※ この辺りのことが今ひとつピンとこない場合には、城 繁幸(2006)『若者はなぜ3年で辞めるのか?』光文社新書の16頁から読んでいくと良いかもしれません(なお、該当の箇所は第1章の冒頭に当たり、もし実際に見てみる場合、そこから何頁まで読むかはご自由にどうぞ)。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA