前回の投稿の最後に、ムハマド・ユヌス博士の提唱するソーシャル・ビジネスにふれました。金銭的、経済的な利益を追求する通常のビジネスと異なり、社会的な利益を重視するのがソーシャル・ビジネスと、よく対比的に言われます。
ただ、この両者は、それほど対立的なものでもないようです。例えばユヌス博士の推進するソーシャル・ビジネスでも、他からの寄付や政府の補助など無くても存続させていけるよう、赤字にならない程度の収益(売上)を上げることは勧められています。事業の運営費-その事業に携わるスタッフの人件費も含めて、ですが-をカバーし、将来の不測の事態に備えた一定の積立もできる程度の収益は、ソーシャル・ビジネスでも営利のビジネスと同じく目指されるべきものです(逆に、それが無く、収入面で寄付等に依存し続ける場合はソーシャル・ビジネスと呼べず、チャリティ(慈善活動)として区別されています)。
他方、通常のビジネス、つまり営利企業の事業活動でも、金を儲けられさえすれば良いとばかりに、ただ経済的な利益だけが追求されている訳ではありません。個別に見ていけば、なかには、そうした企業ももちろん出てくるでしょうが、そうでない企業もあるはずです。ここで、ある日本企業の『設立趣意書』に「会社設立の目的」として挙げられている内の幾つかを以下に抜粋します。
「一、 日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動」
「一、 無線通信機類の日常生活への浸透化、並びに家庭電化の促進」
「一、 戦災通信網の復旧作業に対する積極的参加、並びに必要なる技術の提供」
有名なので既に見たことがあるかもしれませんが、これは東京通信工業株式会社(現・ソニー株式会社)の設立趣旨書で、同社の創設された1946年に記されたものです(※)。一般の企業でありながら、事業活動を通して日本社会の戦後復興に貢献していこうとする姿勢は、まさにソーシャル・ビジネスのそれと変わらないように思えます。
とはいえ、設立趣意書に書かれていたからと言って、現実にそうしていたとは限りませんし、仮に、当初は事実その通りだったとして、年月とともに形骸化していくことも考えられます。実際、上掲の『設立趣意書』で別に「経営方針」として挙げられた最初の二項目:
「一、 不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置き、いたずらに規模の大を追わず
一、 経営規模としては、むしろ小なるを望み、大経営企業の大経営なるがために進み得ざる分野に、技術の進路と経営活動を期する」
という辺りなど、それから前世紀末にかけて海外でも有名な大企業へ成長していった後の、現在の姿とは合わないものに見えます。
終戦まもなく創設され、その後、日本の経済成長とともに企業としても成長してきたソニーですが、次回、創業前後の社会状況とファウンダー(創業者)に関連して、もう少し続けます。
※ ソニー株式会社 企業情報(設立趣意書): http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/prospectus.html (2015年8月31日 アクセス)