東南アジアと日本 大学進学への政策スタンス: 学力 (1)

投稿者: | 2015年8月13日

前々回より、大学進学に対する東南アジアと日本の政策スタンスを比べてみてきました。そのなかには、経済的に厳しい家庭の生徒でも優秀なら大学へ進めるよう、いろいろと対応している国もあれば、こうした手立てを講じるのにそれほど熱心でない国もあります。

日本も-かつての日本はともかく、少なくとも今日の日本では-かねてより教育への公的支出の少なさを国際的にも指摘されてきていながら、むしろ今後さらに絞り込んでいこうとする動きまで見られ、後者へ近づいてきた方と言えるでしょう。

 

さて、大学進学をめぐる政策スタンスについては、そうした支出の面を軸とする見方からの他、当の生徒の資質等に注目した観点からも、また違った国ごとの差を見てとることができます。

具体例を挙げると、前回の投稿でふれたシンガポールでは、以前にも言及したように小学生の時分から各生徒の能力に応じた選別のプロセスが始まります。小学校を卒業して中学校へ進む時点で最初の振分けが行われ、以後、中学を卒業する時点、高校等を修了する時点と、それぞれの段階でさらに選別されていきます。その結果、最終的に大学へ進学できるのは、学力の高い生徒を中心に、従来、割合として低く抑えられてきました。

とはいえ、例えば小学校の段階で選別から外れた側の生徒にも、卒業後の進学先として、一般の中学校より職業教育に重点を置いた学校が設置されています。学力の高くない生徒も、他の能力や技術を磨いていくことで、自ら身を立てていけるようにする教育が、よりドラスティックに目指されているものと見られます。結果的に、ちょうど半世紀前の1965年に独立したばかりのシンガポールが、2000年代には一人当たりGDPで日本を抜き(※)、その点、アジアで最も経済発展の進んだ国となりました。

 

同じく、ちょうど欧州でも、このところEUで唯一(?)気を吐いてきたドイツが、シンガポールと同様の教育体制を採っており、同国の(高等専門学校等を含めない)大学への進学率は比較的低い一方、制度的に職業教育が充実していると聞きます。

アジアとヨーロッパそれぞれの成功者である両国が、今後もそうあり続けられるとは限りませんが、それでも、21世紀初頭のこの時代、一定の工業化を成し遂げた後の国々にあっては、より良い未来へ向けて両国の教育政策や制度に学ぶことも多いのではないでしょうか。

 

※ この点について、その後 2010~2012年頃の円高だった時ならばまだしも、ここ数年、大幅な円安が続いてきた今となっては、日本がシンガポールを逆転することなど望み薄そうです。ちなみに通貨に関して、他方のシンガポール・ドルは、ここ1年ほど(USドルに対し)少し下がってきているものの、それでも、2007~2008年の世界的な金融危機の前後からこの方、日本の円よりはずっと穏やかに、総じて安定的に推移してきました。

 

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